2010年11月27日土曜日

第18回例会(11/27)

日時:11月27日(土) 14:40-17:50

場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(予定) 


発表者1 寺沢拓敬(東大・総合文化・博士後期課程)
タイトル:日本社会における英語志向/非英語志向 ―英語の象徴性が《機能しない》領域
要旨
日本社会における英語の位置づけをめぐる研究は数多いが、そのほとんどが「英語使用・英語学習の価値を肯定的に評価する人々」を主たるサンプル/インフォーマント/事例としている。つまり、「英語志向」者だけを独占的に取り扱っているのである。もちろん英語に意義を見出している人々だけが興味の対象であればさしたる問題はない。しかしながら、英語をめぐる現象を通じて《日本社会》を論じたり、多くの《日本国民》にかかわる政策論を展開するならば、偏ったサンプル(=英語志向者)から、「日本社会/日本人」という全体性を推定することはアンフェアであるといわざるを得ない。
こうした問題意識をもとに、《日本人》―つまり、志向者・非志向者双方を含む―の英語に対する価値付けを、その階層差に注目しながら検討する。具体的には、社会調査データを統計的に解析することで、外国語教育関係者やいわゆる「国際人」が自明の前提としがちな「英語=重要な言語」という等式が成立しない社会階層/文化領域を明らかにしていく。この一連の作業は、従来、「英語ブーム」「英語崇拝」「英語帝国主義」などと過度に一枚岩的に捉えられてきた日本の英語諸現象に対し、それらに取って代わるべき新たな像を提示するものである。
(※ 発表者が参加している研究プロジェクトの未刊行データを用いる関係で、データの詳細や分析結果は当日ご説明します)


発表者2 谷口ジョイ(東大・総合文化・博士後期課程)
タイトル:日本人帰国児童による英語リテラシー能力の保持 -物語のリテリングを中心に-
要旨
本研究は、海外生活を通じて日本語と英語を習得している子ども(帰国児童)が、帰国後どのように英語によるリテラシー能力を保持・伸長しているのかを考察し、帰国児童の支援教育に貢献することを目的とする。これまでの帰国児童を対象とした研究は、海外で獲得した言語の喪失(そのプロセスなど)に焦点が置かれ、滞在年数や帰国時の年齢といった比較的数値化しやすい個人的な要因が扱われることが多かった。このような現状を踏まえ、本研究では、帰国児童の言語能力を「リテラシー」という概念から捉え、マクロ的な分析手法であるストーリーグラマーを用いて、帰国児童が物語全体をどのように読み、把握し、その内容を整理し、再構成するかについて考察した。また、言語保持の程度が特に高い子どもたちに関する成功事例を細緻に、かつ質的に調査することで、彼らを取り巻く社会的要因を明らかにすることを試みた。
調査にあたっては、6名(6-12歳)の帰国児童を対象に読解力査定を縦断的に行い、両言語によるナラティブに検討を加えている。ナラティブとは、時系列に沿った形で物語を構成する言語活動であり、近年、子どもの言語発達を捉える新たな分析の枠組みとして注目を集めている。また、ナラティブ評価に有効とされるリテリングを用いて、Thorndyke (1977) によって提唱された物語文の記憶表象に関する理論であるストーリーグラマー(物語文法)を分析の枠組みとした上で、両言語による差異を考察している。ストーリーグラマーとは、物語を構成する基本的要素であり、物語の設定、問題解決に至る過程、内面的反応、結果といった段階的な構造がリテリングにおいて生起するかを見た。
データ収集に際しては、米国で広く用いられているDRA(Developmental Reading Assessment)及び、文字のない絵本「Frog, Where Are You?」 (Mayer, 1969)等を使用した。また、子どもたちの家庭や学校、その他の教育機関における両言語の使用状況や学習状況を多角的な視座を持って把握し、日常的に行われる「読み」の活動の量・質に照らし合わせて考察を行うために、帰国児童の保護者への質問紙調査、及び面接調査を行った。
調査の結果、リテリングにおける物語の構成要素は、言語により差異が見られ(日本語においては「内面的反応(Internal Response)」が生起するが、英語には見られない、など)特に物語の設定という点で大きく異なっていた。また、物語の構成要素を効果的に組み込むことができた児童は、教科学習としてのリテラシー活動よりも、むしろ「楽しみのため」「社会的インタラクションのため(メールのやり取りなど)」のリテラシー活動を日常的に行っており、それを支援する家庭環境が備わっていた。物語の導入部分から結末に至るまでの「主軸」を客観的に構成し、その素材となる登場人物や状況などを細部にわたって描写する作業は、子どもたちが日常的に行うリテラシー活動と密接に結びついており、こうした物語構成能力の特徴を明らかにすることは、多言語環境にある子どものリテラシー能力の保持・伸長を考える上で、非常に有効だと考えられる。