2012年12月23日日曜日

第23回例会(12/23)


日時:2012年12月23日(日・祝)14:00~17:00
場所:東京大学駒場キャンパス10号館4階(暫定・変更あり) ※昨年までの例会と開始時間および場所が異なります



■ 発表1
発表者:田中祥子(東京大学・総合文化)
タイトル:「日本人大学生の英語の発音に対するイメージと自己効力感」
要旨  日本での国際英語論では、日本人英語学習者にとって「ネイティブのように話す」という目標は、「英語に対する消極的態度を引き起こすだけで、便利な英語運用能力を育成することにつなが」らない(本名, 2003, p.12)というような主張が度々されている。この議論は一見もっともらしく聞こえるが、実証的な根拠があるわけではない。そこで、本研究ではこの点を特に英語の発音に注目して実証的に調査したいと考えている。具体的には日本人大学生が持つ英語の発音に対する態度やイメージと、英語の発音が自分に習得できるだろうという認識、つまり自己効力感(バンデュラ, 1995)にどのような関係性があるのかを調査する。
  「日本人の英語の発音に対して否定的な学習者ほど自分の発音習得に関する自己効力感は低い」という仮説のもと、次のような研究を行う。まずは日本語を母語とする大学生英語学習者に質問紙に回答してもらい、日本人の英語の発音に対する態度と自己効力感に関する項目の相関係数を測定する。更に、より詳しく学習者の態度やイメージを聞く為に、質問紙調査への参加者から数人を選出し、PAC分析(内藤, 2002)を用いた調査をする。PAC分析は、回答者に与えられたテーマに関するキーワードを自由に連想してもらい、研究者がそれらのキーワードからクラスターを作成し、そのクラスターを提示しながら再度回答者に直接クラスターの表すイメージを聞き出すことで、回答者個人の持つイメージをより深くまで引き出そうとする研究手法である。
  発表者は、これら2つの手法から得られた結果をもとに、国際英語論で盛んにうたわれる日本人の英語の発音と学習意欲との問題に、より深い示唆を提供したいと考えている。
  なお、まだまだ研究計画の初期段階の発表である為、より多くの見識者からの助言をいただければありがたい。


■ 発表3
発表者:寺沢拓敬(東京大学・総合文化)
タイトル:「戦後日本社会における英語格差の構造とその変容―計量的および歴史的アプローチ」
要旨 英語の世界的な拡大とともに、非英語圏の国々でも英語学習の重要性が高まっている。それにともない、英語学習へのアクセスの差が大きな問題となっており、教育格差・地域格差が大きい国や教育水準の比較的低い国の政府にとって、懸案事項のひとつとなっている。この点に関して、日本の英語教育機会の構造およびその変容を検討することの意義は大きい。なぜなら、日本は戦後比較的早い時期に、学校教育カリキュラムの標準化・高等教育の大衆化が達成され、同時に、教育の地域格差の解消が目指された国であり(苅谷剛彦 『教育と平等』)、こうした点を踏まえれば、英語教育へのアクセスの問題を、教育格差・地域格差とはある程度独立させた状態で検討することが可能だからである。分析方法は、(1) 戦後における「英語教育機会」をめぐる特徴的な事例の検討、(2)  戦後に行われた世論調査のレビュー、(3) 無作為抽出標本に基づく社会調査データの計量分析である。


2012年10月8日月曜日

Sandra McKay 教授公開講演会


Sandra McKay 教授公開講演会
Special Lecture by Prof. Sandra McKay

日時/Date and Time:

2012年10月8日(月・祭日) 14:00 - 16:00
Monday (National Holiday), October 8, 2012, 14:00 to 16:00


場所/Place:

東京大学教養学部 駒場Iキャンパス18号館4階コラボレーションルーム1
Collaboration Room 1, Fourth Floor, Building 18, University of Tokyo Komaba I Campus

     

演題/Title:

Globalization, Culture, and Language Education (使用言語:英語/Language: English)
      

講演者/Speaker:

Dr. Sandra McKay  (サンフランシスコ州立大学名誉教授)
Dr. Sandra McKay, Professor Emeritus San Francisco State University


Abstract

Globalization is a much used and often loosely-defined term.  This paper will begin by considering the various definitions of globalization and examine what these suggest for current language use and language teaching.  The author will argue that while English often serves as a lingua franca in the present-day globalized world, this is not always the case. However, when it is used as a lingua franca, it is typically used in cross-cultural exchanges in which cultural frameworks are complex and negotiable.
Given globalization and the complex linguistic landscape it generates, the author explores what this means for English teaching today.  What should be the cultural basis of English teaching?  What grammatical, pragmatic, and discourse norms should apply?  What should be the cultural basis of classroom materials and methodology?  These questions will be fully explored in the presentation. In closing, the presenter will argue that the goal of culture learning in English as an international language pedagogy should be to promote a sphere of interculturality (Kramsch, 1998) and an awareness of the hybridity of cultural identity today.



参加費無料, 事前申込不要
Free admission, no reservation necessary



共催:
科学研究費助成事業(基盤研究C12001418)「日本人にとっての英語の資本性」
東京大学駒場言葉研究会 (KLA)
言語教育学・言語社会学研究会 (EASOLA)

Event jointly sponsored by
Grants-in-aid for Scientific Research 12001418 English as Capital for the Japanese
Komaba Language Association (KLA)
Education, Anthropology, and Sociology of Language (EASOLA)


問合せ: 東京大学 片山晶子  (研究室 03-5465-7614)
For further information, contact Akiko Katayama, University of Tokyo (03-5465-7614)
E-mail: akatayama@aless.c.u-tokyo.ac.jp



Prof. McKay Bio

Sandra McKay is Professor Emeritus of San Francisco State University. Her main areas of interest are sociolinguistics, English as an International Language, and second language pedagogy. For most of her career she has been involved in second language teacher education, both in the United States and abroad. She received four Fulbright grants, many U.S Department of State academic specialists awards and distinguished lecturer invitations.  Her books include Principles and Practices for Teaching English as an International Language (edited with L. Alsagoff, G. Hu & W. Renandya, 2012, Routledge), Sociolinguistics and Language Education (edited with N. Hornberger, 2010, Multlingual Matters), International English in its Sociolinguistic Contexts:  Towards a Socially Sensitive Pedagogy (with Wendy Bokhorst-Heng, 2008, Frances Taylor) and Teaching English as an International Language: Rethinking Goals and Approaches (2002, Oxford University Press, Winner of the Ben Warren International Book Award for outstanding teacher education materials).  Her articles appeared in such journals as the Annual Review of Applied Linguistics, Harvard Educational Review, English Language Teaching, International Journal of Applied Linguistics, Journal of Second Language Writing, System, TESOL Quarterly and World Englishes. She has published many chapters in edited books and given plenary talks at various international conferences, including the Asian International TEFL Conference in Korea, the Regional English Language Conference in Singapore and the EFL Asian Conference in Turkey.  She served as TESOL Quarterly editor from 1994 to 1999 and has served on the editorial advisory board for the Journal of Second Language Writing and the TESOL Quarterly.


2012年10月7日日曜日

第22回例会(10/7)

日時:2012年10月7日(日曜日)14:00~18:00
場所:東京大学駒場キャンパス10号館4階(暫定・変更あり) ※前回までの例会と開始時間および場所が異なります


■ 発表1
発表者:伊藤健彦(東京大学・人文社会)
タイトル:「就職活動における不公平が対人行動・政策態度に与える影響:個人的結果の原因帰属の観点から」
要旨 本研究では、就職活動における獲得的地位 (学歴)をもとにした不公平状況が、どう個人の否定的結果の原因推論に影響するのかに焦点を当てた。大学生を対象としたシナリオ実験の結果、1:自分が就職活動に失敗することについて自分が所属している集団よりも優位集団に多く原因を推論する傾向が見られ、従来の内集団奉仕的帰属バイアス研究 (Hewstone, 1990)と一致する知見が得られた。2:不公平状況において優位集団に対して原因を推論することは、優位集団と関わらないという防衛反応に影響し、その効果は内集団同一視が調整することが示された。

■ 発表2
発表者:高史明(東京大学・人文社会)・寺沢拓敬(東京大学・総合文化)
タイトル:「ツイッターを使ったテキストマイニングの理論と実践 ―コリアンに対する偏見を事例に
要旨 KHCoderを用いたTwitter(ミニブログサービス)における言説の解析事例を紹介する。まず寺沢が、テキストマイニング/内容分析/計量テキスト分析と一般に呼ばれる一連の手法について簡単に紹介する。次に、高が実際に分析事例報告を行う。テキスト分析題材として、コリアン(朝鮮人・韓国人)に対する偏見の研究を用いる。ツイート(投稿)を収集し分析するためのノウハウの紹介もする予定。

■ 発表3
発表者:岡部大祐 (青山学院大学・国際政治経済)
タイトル:「取扱い注意」―ある看護職のナラティヴ実践における病気の活用と対処
要旨  本発表では、ある女性(看護職)が、がん啓発イベントに参加した際の出来事について語った、不満話を事例として、その中で病気及びそれに罹患した人を、どのように取扱い、結果、どのような行為に従事しているのかを検討する。

発表では、データを分析する際の背景として、語り手が参加した啓発イベントの概要や、調査者との関係、データ収集の方法などのコンテクスト情報を紹介したのち、ふたつの挿話的なストーリーのナラティヴを分析する。

事例には、ナラティヴを相互行為として分析する、ポジショニング分析を援用する。分析では、ある状況では、自身の不満を正当なものとして作り上げ、同時に、有能な医療専門職という、社会的アイデンティティを行う「資源」として病気を用いる一方で、また別の場面では、上述の行為を成すために対処すべき「障害」として取り扱う様子を示す。

最後に、このような分析を通じて、語り手と聴き手の相互行為の中での病気の取扱われ方や、その生み出す効果が、病気の社会的意味の一部を示していることを述べる。



2012年2月2日木曜日

第21回例会(2/19)

日時:2012年2月19日(日曜日)14:40-17:50、場所:東京大学駒場キャンパス18号館

■ 発表1
発表者:山下里香 (東京大学人文社会研究科博士課程)
タイトル:「 バイリンガル児童による多言語使用:モスク教室における crossing」

■ 発表2
発表者:永瀬恵子 (早稲田大学教育学研究科修士課程)
タイトル「修論構想:言語技術教育としての言語感覚の育成:国語科教育学における詩の指導」

■ 発表3
発表者:寺沢拓敬(東京大学総合文化研究科博士課程)
タイトル:「誰が早期英語教育政策を支持するか ---世論調査の計量分析」


発表1の要旨
     社会的マイノリティの言語・文化の親世代から子世代へ継承には,ミクロ・マクロの社会的・心理的要因が大きく関係していると考えられる.コミュニティ内の社会関係の維持・生成は、どのようにそうして言語の資源の分配・使用を通してなされているのだろうか.また,そのダイナミクスはコミュニティ内外の社会的構造・背景とどのように関わりあっているのだろうか.  本発表では,首都圏にあるモスクのコミュニティの教室における教師と児童の自然談話において,標準日本語を使いこなしている日本語・ウルドゥー語バイリンガル児童が,音声的,語用的,文法的に異なる特徴をもつ,親世代の南アジア人JFL話者の日本語をスタイル化したもの(以下SSAJ)を談話の中で使用した例を、linguistic ethnographyの方法を用いて分析する.順序として(1)SSAJの使用をミクロに分析し、(2)コミュニティの民族誌的フィールドワークから得られたデータからSSAJに付与された意味を論じる.  現段階の結論としては,バイリンガル児童によるSSAJスタイルの使用が,モスクコミュニティ内外でのメンバーの役割分担や上下関係,言語イデオロギーと関わっており,コミュニティ内で子供世代として上の世代と社会関係を構築する営みの中に組み込まれていると考えている.


発表2:要旨
     本研究は、日本の国語科教育のなかでも、特に指導が難しいとされる近現代詩の特性に焦点を当て、国語科教育における詩指導の必要性を、言語技術という観点から考察することを試みるものである。学習指導要領国語科目標のなかには、「言語感覚」という言葉が見受けられる。この「言語感覚」という語意は未だ曖昧な部分があるものの、言語に対して主観的・直観的な感覚であるというのが大方の識者の見解であるといえる。
     本発表においては、発表者の修士論文構想案を示した後、言語技術教育として、国語科教育の枠組みのなかで詩を用い「言語感覚」の育成をどのようにして行うことが可能であるのか、先行研究を踏まえながら考察していくことを目的とする。


発表3 要旨
     研究目的は、英語教育の早期開始を支持している人々の特徴を解明し、英語教育論と政治的立場の連関を検討することである。
     近年の英語教育改革を推進した政治的要因として、いくつかの説明がなされてきた。たとえば、「産業界の圧力」といった新自由主義的な説明や、「グローバル化に対応可能な英語力を育成してほしい」という「大衆」の要求など。一方、その対抗勢力として、「英語の前に日本語を」「日本人のアイデンティティが大切」のようなナショナリズムが対置されることも多い。
     しかし、実際には、これはそれほど単純ではない。「ナショナリスト」と目される人々が英語教育論に関しては真っ向から対立していたり、逆に、右派と左派の論者が同じ結論に至っていることも多い(「共闘」している場合すらある)。こうした錯綜した軸を解きほぐし、実態に即して政策論を展開するために、世論調査を2次分析する。