2009年12月12日土曜日

第11回例会(12/12)

■日時: 12月12日(土)14:40~17:50

■場所:東京大学・駒場キャンパス・18号館・2F・院生作業室


■発表1

・論文評:Kramsch, C. (2000). Second Language Acquisition, Applied
Linguistics, and the Teaching of Foreign Languages.The Modern Language
Journal 84(3): 311-326.
・発表者:檜垣洸一(東京大学・総合文化・D1)
・要旨:「第二言語習得」とは一体何なのかを理論的に論じているクレア・クラムシュの論考を取り上げる。第2言語習得/SLAには、現在、複数の異なる定義が並立・錯綜状態にあるといえるが、それぞれの定義が則っている諸前提を明らかにし、より生産的な議論につながるための示唆を与えている。

[ABSTRACT] Given the current popularity of Second Language Acquisition
(SLA) as a research base for the teaching and learning of foreign
languages in educational settings, it is appropriate to examine the
relationship of SLA to other relevant areas of inquiry, such as
Foreign Language Education, Foreign Language Methodology, and Applied
Linguistics. This article makes the argument that Applied Linguistics,
as the interdisciplinary field that mediates between the theory and
the practice of language acquisition and use, is the overarching field
that includes SLA and SLA-related domains of research. Applied
Linguistics brings to all levels of foreign language study not only
the research done in SLA proper, but also the research in Stylistics,
Language Socialization, and Critical Applied Linguistics that
illuminates the teaching of a foreign language as sociocultural
practice, as historical practice, and as social semiotic practice.

(e-journal: http://www.jstor.org/stable/330563)



■発表2
・題目:「英語と社会階層の戦後教育史―教育機会の観点から」
・発表者:寺沢拓敬(東京大学・総合文化・D3)
・要旨:戦前はもとより、戦後、学制変更や教育機会の量的拡大を経てもなお、英語教育へのアクセスには明かな社会階層差(あるいは社会的格差)が存在していた。では、人々はこうした階層差をどのように認識していたのか。本発表では、新聞記事の言説を分析することで、英語の教育機会における実態レベルと認識レベルの「ずれ」を描き出したい。そして、こうした「ずれ」を成立せしめた条件にはいかなるものがあるのかもあわせて検討する。


2009年10月11日日曜日

第10回例会

日時:10月11日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ) 

  • 発表者1:寺沢拓敬(東大・D3):「英語教育学」の知識社会学

 日本における「英語教育(英語の教授)」は、近代前後から行われており、その点で歴史は古い。一方、「英語教育学」、つまり、「学問」としての英語教育研究の提唱は、1960年代まで待たなければならない。
「学問」としての「英語教育学」は、とりわけ英語教育関係者の内部で、その重要性が強調されてきたが、一方で、その「学」の成立根拠に関しては等閑視されてきたきらいがある。ある意味で、現在の英語教育学の「学問たるゆえん」は自明のものとして理解されているとさえ言えよう。
 こうした状況の帰結のひとつが、「英語教育学」という名の下で行われる知識システムの再生産(既存の知識システムによって、知識生産のプロセスが水路づけられ、新たな、しかし、同構造の知識の産出が繰り返される)である。こうした再生産は、“英語教育学は「科学的」かつ「客観的」な「真実(truth)」に則った「中立的」・「自律的」な知識にコミットしている”という前提に依拠することでスムースに行われる。しかしながら、科学哲学/科学史/知識社会学が明らかにしてきたように、学問集団に受け入れられている「知識」が、その学問の「内在的原理」で、完全に説明できることはまずない。現存する知識システムは、学問的探求の結果であるだけでなく、さまざまな政治・経済・社会的要因(e.g.イデオロギー、学会政治、産業・経済構造、研究機関など物理的・制度的条件)によって生み出されている。その過程には、必然的に、「そのほかの知」(e.g.現場の知)を排除していく働きが存在する。
本発表では、「学」の起こり(1970年代)以降、英語教育学において何が「知識」として認められてきたかを通時的に検討する。そのうえで、(1)「現場の知」および、(2) 他領域の教育研究(e.g.教育学、教育社会学、教育哲学)の「知」と比較することで、英語教育学の「知」の特異性・独自性―さらに言えば「奇妙さ」―を描き出す。

2009年8月29日土曜日

第9回例会

日時:08月29日(土)16:00~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ) 

  • 発表者:榎本剛士(立教大学大学院博士課程)
  • タイトル:Teachers as frame keepers: Metapragmatic improvisation and regimentation in a Japanese high school “English conversation” classroom
  • 要旨:
本発表では、学校という場における「英会話」の授業を維持するために教師が駆使する、(無意識的な)メタ語用的ストラテジーを明らかにすることを試みる。

はじめに、本研究の理論的枠組みとなっている、社会記号論系言語人類学のコミュニケーション理論を提示する。そのうえで、関東圏のある公立高校における「英会話」の授業録音データをもとに、①英語教師、ゲスト、生徒による自己紹介を通じて、どのような参加の構造(=相互行為の枠組み)が授業導入時に立ちあげられているかを同定する。つぎに、②授業の展開部である「(ネイティヴ・スピーカーへの)インタヴュー・タイム」における相互行為を分析し、参加者によって前提とされている「相互行為のモデル」のプロトタイプを明らかにする。

以上、授業の参加の枠組み、また、授業において前提とされている相互行為のモデルを、データに則して確認した上で、本研究ではさらに、上記「枠組み」や「モデル」にひびが入ると同時に、それらが維持される瞬間を捉え、分析する。具体的には、「授業フレーム」をはみ出る(可能性を含んでいる)ような、4つの出来事を紹介し、それらに対して教師がさまざまなメタ語用的ストラテジーを(恐らく、無意識的に)駆使しながら、フレームの潜在的混乱を手なずけていく様子を描き出す。

このような、教室で実際に起こった相互行為を分析することにより、フレーム・キーパーとしての英語教師の役割を明示するとともに、英語教育にとって「学校」や「教室」がどのようなコンテクストとして作用しているかについて、考察を行う。


2009年8月1日土曜日

第8回例会、8月1日

■ 日時 8/1 (土) 14:40~17:50
■ 場所 東大駒場18号館2F院生作業室


■ 報告者
(1) 片山晶子(早稲田大学[非])
(2) 寺沢拓敬(東大・言語情報・D3)


■ 発表者(1)
・論文評(以下の論文)
Kramsch, C., & Whiteside, A. (2008). Language ecology in multilingual settings: Towards a theory of symbolic competence. Applied Linguistics, 29, 645-671.
http://applij.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/amn022v1
[Abstract]
This paper draws on complexity theory and post-modern sociolinguistics to explore how an ecological approach to language data can illuminate aspects of language use in multilingual environments. We first examine transcripts of exchanges taking place among multilingual individuals in multicultural settings. We briefly review what conversation and discourse analysis can explain about these exchanges. We then build on these analyses, using insights from complexity theory and interactional sociolinguistics. We finally outline the components of a competence in multilingual encounters that has not been sufficiently taken into consideration by applied linguists and that we call ‘symbolic competence’.

はじめに応用言語学の理論的枠組みとして、少しずつとりいれるようになってきたポストモダニズムについて、短くお話をしたあと、先日もお知らせしたとおり、下記のpaperについてdisucussionしたいと思います。今実際データと取り組んでいる研究者のみなさんが、この論文についてどのような感想をもたれるのか、faci litatorとしておききしたいと思っています。よろしくおねがいします。



■ 発表者(2)
・題目:
Cultural, economic, and regional gaps in English skills in Japan: Through statistical analysis of the data of JGSS

・要旨:
 近年、日本だけでなくアジア各国において、英語の教育機会格差に対する注目が集まっている。本発表では、「英語力の階層差」を、英語の教育機会格差を反映するものとしてとらえ、日本におけるその趨勢を分析する。日本をとりあげる意義は、戦後(特に60~70年代)、「経済発展」「教育の標準化」そして「教育費の地域格差の解消」を成し遂げたという点で、他国(特に、現在それらの課題の達成途上にあるいくつかのアジア諸国)への示唆を多く含む点である。なお、先行研究(寺沢 2009a, 2009b)は、日本特有の教育制度・社会構造に全面的に依拠した分析を行っており、他国への示唆を考える上では有効ではない。したがって、本発表は、先行研究を簡略化したモデルに基づく。
 分析方法は、ピエール・ブルデューの「文化的再生産」理論にもとづいた統計解析である。データは、日本国内の社会調査データを用いる。
 結果は、概略的に述べれば、次のとおりである。(1)ジェンダー格差→明らかな消失傾向、(2)家庭の経済力に起因する格差→減少傾向、(3)親の教育レベルに起因する格差→維持傾向、(4)田舎・僻地の不利な度合い→明確な減少傾向、(5)大都市の有利な度合い→維持。以上の結果をもとに、政策的示唆を議論する。
(※ 発表は英語で行います)

2009年7月18日土曜日

第7回例会、7月18日

日時:07月18日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ) 

  • 日時: 7月18日(土)14:40~
  • 場所:東京大学・駒場キャンパス・18号館・2F・院生作業室
  • 報告者:檜垣・寺沢(いずれも東大博士課程)
  • 題目:【論文評】批判的応用言語学
  • 課題文献
    Pennycook, A. (2006) Critical applied linguistics. In A. Davies & C. Elder, (Eds), Handbook of Applied Linguistics. Oxford: Blackwell
    ドラフトバージョンはこちら
  • 趣旨
     「批判的応用言語学」とは、主流の応用言語学が暗黙の前提としてきた「非政治性」「科学志向」「価値中立的態度」「静的言語観」などの問題性を指摘し、そのうえで、言語現象を社会文化的・政治経済的・権力的・動的な営みとして理解することを目指すアプローチである。この立場は、日本の応用言語学、とりわけ英語教育研究ではほとんど受容されていないが、欧米においては、周辺領域(e.g. 社会学・人類学・教育学)を含めれば、すでに80年代から、非常に大きな注目を集めている。
     ただし、批判的応用言語学は、単に、既存の応用言語学の否定のうえに成り立っているわけではなく、従来の応用言語学・社会言語学・外国語教育研究などが陥っている諸問題を批判的に検討することで、「より健全な応用言語学」を追求するものである。したがって、この立場に与しない人であっても、現在の応用言語学にはどのような限界があるかを理解することができる点で有用であると言えるだろう。
     本論文評で取り扱う Pennycook(2006)は、批判的応用言語学の理論的立場を、主流の応用言語学と対照するかたちでコンパクトにまとめた入門的性格の強い論文である。
  • 報告者より補足
  1. ネタ元 この論文は、以下の本の「超圧縮」版と言えます。余裕がある方はご一読下さい。Pennycook, A. 2001. Critical Applied Linguistics : A Critical Introduction. Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum
    http://www.amazon.co.jp/dp/0805837922
  2. 参考になるwebサイト
    ・広島大学・柳瀬陽介先生による解説:http://yosukeyanase.blogspot.com/
    ・上掲書(Pennycook 2001)の読書会のレジュメ:http://d.hatena.ne.jp/CALx/
  3. 背景知識
     上の論文を読むうえでは、応用言語学の知識に加えて、思想史(特にマルクス主義、構造主義、ポスト構造主義など)、社会学(社会理論)、教育学、マイノリティ研究の知識が若干必要になります。その辺りに不安な方は、入門書の類で構いませんので、簡単に目を通しておいて頂けると、読解がスムーズになります。

    (文責・寺沢)

2009年7月4日土曜日

第6回例会、7月4日(土)

日時:07月04日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ) 


発表者
  • 伊藤健彦(慶応・M2)
発表タイトル:日本における第二言語WTC研究の可能性

発表要旨:
 現在の日本の英語教育の対象の一つである英語学習者の「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」と英語使用、英語学習の動機づけの関係を明らかにするために、第二言語Willingness to Communicate(以下WTC)研究を行なう。
WTC(コミュニケーションするか否かが自由な状況で、自らコミュニケーションを始める意思)モデル(MacIntyre, 1994)と、日本における第二言語WTC研究の問題点を教育心理学的に指摘した上で、日本人英語学習者における英語コミュニケーション変数と英語学習変数の関係を考察する。まず、従来のWTCモデルではWTCが直接的に言語使用を予測するとしているが、第二言語WTCについての実証的な研究を見ると、第二言語WTCは第二言語使用をほとんど予測していないことが分かる。この原因として、WTCモデルでは動機づけの認知論的アプローチ「期待×価値理論」における「価値」にあたる要因が想定されていないことを挙げ、「価値」にあたる要因を取り入れたWTCモデルを提案する。また、日本における第二言語WTC研究の多くが第二言語環境に特化した「社会教育モデル」(Gardner, 1985)を用いていることについて、外国語環境ではその有効性を十分に発揮できないことを指摘する。そして、代案として、自由記述によって広く日本の学習者の動機を捉えて構造化された、市川(1995)の「学習動機の2要因モデル」を用いる。以上の点を踏まえて、英語WTCと英語学習動機(6つの因子のう3因子:実用志向、関係志向、自尊志向)の積が、英語コミュニケーション使用に強い影響を与えているという仮説を立てた。仮説検証調査では、日本の高校生を対象に質問紙調査法を行い、全体的傾向と個人差の観点からデータを分析するため、共分散構造分析とクラスター分析を行う。
  • イリーナ・ドゥビーノカ(Iryna Dubynka)(東大・M2)
仮のタイトル:ウクライナの日本語非母語話者の中間言語における断りの発話連鎖について (Interlanguage Refusal Sequences by Ukrainian Non-Native Speakers of Japanese)

概要:
第二言語学習において、学習者の言語体系は母語を手掛かりとして目標言語へと向かっていく。このような母語とも目標言語とも異なった学習者特有の言語体系を中間言語という。本研究では、ウクライナの日本語非母語話者の中間言語における断りの発話行為に焦点を当て、インタラクションの中で、断りの発話連鎖はどのように展開していくかについて考察を行う。

現在、修論の構想を練っているところですので、皆様のご意見、ご助言をいただければ幸いです。

2009年6月20日土曜日

第5回例会、6月20日(土)

日時:06月20日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ) 


第5回例会

日時:6月20日(土) 14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス 18号館(※) 2階 院生作業室
発表者:
1. 谷口ジョイ(東大・総合文化・M2)
2. 竹本真衣(東大・総合文化・D1)


発表題目および要旨


1. 谷口ジョイ(東大・総合文化・M2)

テーマ:Retention of Literacy in Bilingual Children

海外において一定期間を過ごし、帰国する学齢期の児童・生徒(帰国子女)の現地語能力は、渡航年齢、在留年数など多くの要因によって幅があるが、彼らが一様に直面するのは、その言語の保持・伸長の問題である。
本研究は、言語保持という観点から12名の帰国子女を対象とした縦断調査を行い、英語によるリテラシー能力について考察する。
調査対象は、海外生活を通じて英語を習得している小学生帰国子女とし、以下2点を研究の目的とする。
(1)彼らの英語による読解能力の特徴がどのようなものか記述する。
(2)海外で身につけた読解力の保持・伸長に、どのような要素が関わっているかを、帰国後の保持教育、読書習慣、メディアとの接触、家庭内にける使用言語といった点から検証する。
研究の具体的手法としては、まず保護者との面接及び自由記述式のアンケート調査により、子供たちの言語環境を調査し、家庭や学校、その他の教育機関における言語使用状況や学習状況を多面的に把握する。また、読書習慣など、英語を用いた「読み」の活動がどの程度行われているのかについても調査を行う。子どもたちの読解能力に関する調査にあたっては、Hill, B.C.(2001)のDevelopmental Reading Continuumを踏まえたDevelopmental Reading Assessmentを使用し、(1)テクストの型、(2)音読、黙読、読みの速度、(3)読書行動に対する態度と傾向、(4)読みのストラテジー、(5)内容の理解と反応、(6)読書に対する自己評価といった観点から総合的に評価する。
調査は1ヶ月に1回、6ヶ月間にわたり行い、背景の異なる被験者の読解能力を、データ収集時にできるだけ正確に測定し、その後の推移を追跡調査する方法を採る。
現時点では分析の前段階にあるため、具体的な知見は得られていないが、被験者間の読解力の保持程度には非常に大きな差があることが見て取れ、読書習慣及び兄弟間での使用言語が関わっていることが示唆される。


2. 竹本真衣(東大・総合文化・D1)

テーマ:Footing in bilingual storytelling activities: Codeswitching in Japanese and English

要旨:
本研究は、ハワイで幼児期から日本語・英語の二言語に接する環境にいる5歳から8歳までの男女21人のバイリンガル児たち(5;0-8;11)の、語りにおける日本語と英語の言語の切り替えを調べた。
文字のない絵本に編集された物語を題材に、子供たちが自由に日本語と英語でそれぞれ語った音声データを基に、子供たちの言語切り替えが、どのような参与者のいる枠組みで、どのような自己の位置づけに基づいて決められているのかを、contexualization cue (Gumperz, 1982), footing (Goffman, 1981)を用いて、分析した。

分析の結果、バイリンガル児の言語選択は、お話を語るタスクの中で、談話中の様々な機能を表すために使われていたことがわかった。多くの場合、異なるコンテクストを表し、単にお話の情景描写をするのとは違うことを示すため、またオーディエンスかつ語りの参与者である仲間たちとの間で、自分の位置づけが変化した際に、言語を切り替えていた。

バイリンガル児の言語切り替えは、ランダムな行為ではなく、日本語・英語の言語内外的な情報と、話者自身の二言語を使ったコミュニカティブ・ストラテジーを示唆するものであった。

2009年6月6日土曜日

第4回例会、6月6日(土)

日時:06月06日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ) 

  • 檜垣洸一(東京大学大学院博士課程)
■ 研究題目:記述式フィードバックと学生による校正の分析―より直接的か、より間接的か?―

■ 要旨

本研究は、日本における英語ライティング教育研究の蓄積を高めることを目指し、大学生を対象としたライティングプログラムでのティーチングアシスタント(以下TA)による記述式フィードバック(Written feedback、以下フィードバック)と学生の校正の関係を調査した。

本研究では、以下の2つのリサーチクエスションを設定した。
(1)直接的フィードバック(Direct Feedback)と間接的フィードバック(Indirect Feedback)のどちらがより学生の校正に繋がるのか?
(2)フィードバックを与えられた結果、学生はどのような校正を行うのか?

大学生14名から集められたエッセイ78本を分析した結果、以下の結果が得られた。
1)学生は直接的、間接的、エラーに関する説明の有無などの要因に関わらずフィードバックを与えられた場合、フィードバックを与えられない場合に比べ、有意により校正を行う。
2)間接的フィードバックにエラーに関する説明が付随すると95パーセント信頼区間の範囲内において、説明が付随されない場合に比べ校正の割合が高くなる。
3)フィードバックの内容と校正の内容には強い関係性が認められた。


  • 中竹舞依子(東京大学大学院博士課程)
■ 論題:日本人英語学習者の語彙サイズと語彙の使い分け能力の関係についての考察

■ 要旨

発表要旨:本研究の目的は、日本人英語学習者の語彙サイズと語彙の使い分け能力の関係を調査することである。語彙サイズとは、学習者が知っている単語の総数のことである。語彙の使い分け能力とはコンテクストに応じて意味の類似した単語(例:big/large)を適切に使い分けることのできる能力のことを指す。本研究では、語彙サイズと語彙の使い分け能力の関係を明らかにするために、日本の中学3年生から高校3年生を対象に語彙サイズテストと語彙の使い分け能力テストを実施し、以下の3つの研究課題について検討した。
1.語彙サイズと語彙の使い分け能力の間に相関はあるのか
2.相関がある場合、どのくらいの相関があるのか
3.学年が上がるにつれて、語彙サイズに応じて語彙選択能力はどのように変化するのか
調査の結果、①語彙サイズと語彙の使い分け能力の間にはmiddle-highの相関があること、②学年が上がるにつれて、学習者の語彙サイズも語彙の使い分け能力もともに伸びるものの、その伸び率は後者の能力の方が小さいということが確認された。


  • 寺沢拓敬(東京大学総合文化博士課程)
■ タイトル:「英語が“使える”日本人」とは誰か?―計量的アプローチを用いた日本人の英語使用の現状把握

■ 発表要旨

 政策議論には正確な現状把握が欠かせないが、日本の英語教育政策にはその面の研究が不足している。本発表では、日本人全体を代表する社会調査データ(Japanese General Social Surveys の 2002年、2003年、2006年版)をつかって、「日本人と英語」の現状を把握する。特に、「英語が使える日本人育成のための戦略構想」を意識し、日本人の英語使用、特に職業上の使用に焦点をあてる。(なお、その比較対象として、「職業外の英語使用」についても分析し、その結果を適時参照する)。

 分析手順は以下の通りである。
(1) 業種(産業分類)にしたがって、英語との結びつきが強い職業とそうでない業種を分類する
(2) 英語使用の規定要因に関する理論モデルに基づき、使用に影響を与える要因を職種ごとに分析する
(3) 分析結果をもとに、日本人の「英語使用」がどのような属性の人物に配分されているのか、いいかえれば「英語使用の個別性」を あきらかにする。

 以上の分析に基づき、「日本人と英語・英語教育」をめぐる議論はいかにあるべきかを考察する。


※時間に余裕があれば、カテゴリカル・データの分析に重宝する(にも関わらず、なぜか外国語教育研究ではあまり使われない)「ロジスティック回帰分析」の紹介もする予定。大ざっぱに言えば、ある(多重)クロス表に関して、独立性の検定(連関の有無)と効果サイズ(連関の度合い)を、複数の変数を統制しながら一度に算出する手法。ただし、単なるクロス表分析とは違い、独立変数に量的変数も持ってこれる点が強み。

2009年5月23日土曜日

第3回例会、5月23日(土)

日時:05月23日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生作業室(→キャンパスマップ
 

  • 田畑きよみ(東京大学大学院修士課程)「教科書に見る明治初期(M1~M10)の英語教育事情」
問題の所在

 明治維新により日本は海外に門戸を開き、「和魂洋才」を旨として欧米諸国の文物を積極的に取り入れることにより殖産興業、富国強兵を実現しようとしたことは言うまでもないが、このような社会的背景の下で、明治初年から「英学」を10歳から12歳の児童に教える営みは始まっていたことが資料から裏付けられる。
 小学校を全国各地に設置するようにという明治政府からの要請が各府県に出されたのは明治2年のことであったが、京都市では、すでにその前年の明治元年に64校を設置している。また、青森県など、県財政が豊かでなかった県では明治五年の「學制頒布」(当時の用語による)後に徐々に小学校を設置していった県もある。
 このようにばらつきはあるものの、明治初年から設置された教科目数の少ない公立小学校成立より英語が教えられていたという事実のもつ意義は歴史的に、また英語教授法の観点から大きな意義をもつものと考える。なぜなら、明治初期の小学校英語指導の実態を解明した先行研究が見当たらないからであり、かかる実態が書誌的に解明されれば、現在の小学校の授業への英語の正式科目としての導入に関する現在の論議に役立つものと考えるからである。
 さて、当時の英語教授法は、体系的に確立されたものではなく、日本に在留する外国人(Native Speakers of English)に学んだ日本人が教師として授業を行うケースが一般的であったが、日本人の手で書かれた教科書を使用し、その兄弟弟子に学んだ教師が英語を教えていたケースも存在する。この教科書を分析することにより、明治時代にどのような英語教授法を教師たちが目指していたのか、またどのような授業が行われていたかを推測することは可能であると考える。
 したがって、本発表では、そうした教科書の一つ、1873(明治6)年に出版された『英国単語篇』を分析する。著者は奥村春斎という緒方洪庵の適塾で蘭学を学んだ蘭医である。この教科書は愛知県の第九中学区内四十三番小学明月清風学校で6級(7歳)用教科書として採用された。さらに、奥村の出身地である高山で最初に設置された小学校である煥章学校でも教えられた。この煥章学校で英語を教えた中川八郎は元紀州藩士で箕作秋平及び福沢諭吉の慶応義塾で英学修行を行った人物である。三府、五港でもない高山において英語教科書もほとんど無く、英語教授法も未だ確立されていない學制頒布後まもない時期にどのような英語教授を行ったのであろうかというのが、私の研究課題である。

  • 関口貴央(東京大学大学院修士課程)「書評:山田・大津・斎藤『「英語が使える日本人」は育つのか?』(岩波ブックレット、2008)」http://www.amazon.co.jp/dp/4000094483
※寺沢注:発表2(書評)は、ゼミ参加者が同書を読了済みであることを前提として行われます。可能な方はあらかじめ目を通してからお越しください

 
 

2009年5月9日土曜日

第2回例会(5月9日)

日時:05月09日(土)14:40~17:50
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階ラウンジ(→キャンパスマップ) 

  • 寺沢拓敬(東京大学大学院博士課程)「戦後日本における『英語教育における不平等』への認識の変容過程―新聞記事の分析を通して」

 近年、いわゆる「格差社会論」の隆盛と共に、英語教育の領
域においても教育機会の格差・不平等に対する注目が集まって
いるが、実際のところ、こうした格差は最近になって深刻化し
たものではない。むしろ格差は戦前から戦後、そして高度成長
期を通じて一貫して存在していた。この点を踏まえ、本発表で

  • 英語教育機会の格差は、戦後期、どのように認識されてい
たのか?

を新聞記事をデータとした言説分析の手法を用いて素描し、そ
の上で、
  • そのような認識がどのような社会的背景に起因するのか?
を明らかにする。

2009年4月25日土曜日

第1回例会(4月25日)

日時:4月25日(土)14:40~17:00ごろ
場所:東京大学駒場キャンパス18号館2階院生ラウンジ(→キャンパスマップ)  (なお、16:20より2階院生作業室に移動します)

  • 今後の予定について

  • 榎本剛士(立教大学大学院博士課程)「英語教育研究における言語人類学的アプローチ:Dell Hymesを蝶番として」

1960-70年代にDell Hymesが提示した“communicative competence”(以下、CC)という概念は、(言語)教育研究の分野に、多大な影響を及ぼした。しかし、その影響のしかたは、研究分野が「(第二)言語教授法」と、学校や教室における「教育実践一般」のどちらを研究対象とするかによって大きく異なり、最近になって、両者間の交通が盛んとなり始めた。このような背景を鑑み、本発表では、CCという概念に異なる形でアプローチしてきた二つの大きな流れの「蝶番」としてHymesを位置づけ直し、さらに、教育言語人類学(linguistic anthropology of education)という視点を援用することで、両者間の交通を容易にするための理論的枠組の一端を明示化することを試みる。

まず、本発表の出発点として、1980年代初頭のCanale Swainを嚆矢とし、その後、SavignonBachmanらによってなされてきた、応用言語学・言語教育の分野におけるCCのモデル化を概観し、その上で、Hymes自身が設定した、CC を体系化するための「四つの問い」を確認する。その際、(1) CCが提示された1960-70年代、Hymesが「コミュニケーションの民族誌」という研究プログラムの旗手であったこと、(2) CCが「発話出来事」(speech event) に投錨された概念であること、以上二点について言及しながら、(第二)言語教育向けのモデル化とHymes自身による問題設定との間には、根本的な志向性の相違があることを明確にする。

続いて、Hymesの志向性を直接的に受け継ぐ形で展開した、学校や教室の「民族誌」的研究の流れを素描する。具体的には、Hymes自身やCazdenHeathPhilipsEricksonらによって先鞭がつけられた、教育の場におけるコミュニケーションとそれを取り巻く社会文化的コンテクスト、そして、それらと不可分に結びついた価値づけや権力関係といった諸問題における、CCの位置を同定する。

以上を踏まえながら、近年、社会記号論系言語人類学の理論を取り入れるかたちで形成されつつある「教育言語人類学」の要石ともなっている、「発話出来事 (speech event, Es) と「語られる出来事 (narrated event, En) の区別、および、「前提的・創出的指標」という概念を導入し、CCを扱う上記二つの流れのうち、「(第二)言語教育」研究における主な焦点をEn としてのコミュニケーション、「民族誌」的研究のそれをEsとしてのコミュニケーションとして位置づける。このように、Hymesに端を発するとされる二つの研究の潮流が扱うCCの異なる側面を、同じコミュニケーションの「場」に位置づけることによって、両者を包含した、言語教育研究の枠組の明示化を試みる。

2009年4月8日水曜日

EASOLAについて

首都圏の研究者・学生が運営するインフォーマルな(しかしアカデミックな)研究会、EASOLA(Education, Anthropology, and Sociology of Language; 「言語教育学・人類学・社会学」研究会)の概要です。


0.参加資格


  • 参加資格はとくにありません。
  • 参加申し込みも必要ありません。
    • ただし、休日の場合、建物が施錠されていて入れないことがあるので、事前のご連絡をお勧めしています
  • 発表希望者は、寺沢まで事前にご連絡ください。



1.目的

A) 研究発表(学会での口頭発表や論文投稿)の予行練習として(※)
B) 修論や博論など具体的な研究に入る前段階の情報収集・ブレインストーミング
C) 言語教育学・言語社会学に関する情報の共有化

※ 通常の学会発表とは違い、プレゼンテーションに比較的多くの時間が必要な「質的研究」「学説研究」「歴史研究」に十分な発表時間が確保できる
※ 「量的研究」にとっても、学会発表では省略されがちな基本的な部分(被験者のプロフィール、質問紙の回答項目、生データの基本統計量、手法の選択根拠)などについて議論できる


2. 研究会の射程
  • 社会・文化・歴史・権力・教育・認知に関する現象を志向した言語研究
  • 社会言語学、言語社会学、母語/外国語教育研究、識字研究、学説史、言語政策など


3. 発表形態

A) 研究発表(例)
  • 実証研究(計量分析、フィールドワーク、歴史研究、テクスト分析 など)
  • 先行研究のメタ分析
  • イデオロギー分析/思想研究
  • 学説研究(学説史)、理論研究

B) 研究構想発表(例)
  • 修士2年:修論構想について「ご意見募集」
  • 修士1年:卒論の発表、および修士での研究の方向性に関して「ご意見募集」
  • 博士課程生:新たに始動する研究の構想、および先行研究レビュー

C) 書評・文献紹介(例)
  • 紹介したい論文・書籍等の紹介
  • 新刊・話題の本などの書評


4. 開催日時・場所

4.1.開催ペース

  • 2ヶ月に1回程度
  • 発表者がいない場合は休会です。

4.2. 曜日
  • 原則として、土・日・祝(発表者の都合を優先して決めます)

4.3. 場所
  • 原則として、東京大学駒場キャンパス内、どこかの教室
  • (詳細は、随時決定します)


5. ゼミ当日のスケジュール(一例です)

5.1. 研究発表・研究構想発表

  • ・1人持ち時間90分(延長可)
  • 発表:30分~45分
  • 質疑+議論:45分~60分

5.2. 書評・文献紹介
  • 1件につき60分前後
  • 紹介者による要約・問題提起:30分前後
  • 質疑+議論:30分前後


6. 例会までのスケジュール(一例です)
  • 例会1ヶ月前をめどに発表者の決定(いない場合には「休会」)
  • ブログやメーリングリストなどで告知
  • 発表者は2週間前をめどに要旨を提出